建築業界に就職する建築学生や新入社員・若手社員のみなさんは最初に図面の読み方で苦労することが多いと思います。建築実務では大量の図面を効率よく読み解いて仕事を進めていかなくててはなりません。しかし、意外と図面の見方って教えてもらう機会が少ないものです。この記事ではこれから建築実務をはじめる人向けに図面の見方のポイントをお話していきます。
【 先輩は教えてくれない図面の見方と読み方のコツ 第6回 】
設計監理者と施工者、それぞれの視点で【見比べる力】を鍛える方法
「図面通りに施工しているはずなのに、なぜか現場でうまくいかない」
そんな違和感を、新人のうちに一度は経験するはずです。
図面は「理想を描いたもの」であり、現場は「現実の場」。
このふたつの間には、必ずと言っていいほど『ズレ』が生まれます。
ではそのズレを、どう読み解き、どう対応していくか?
今回は、設計監理者と施工者、それぞれの立場で図面と現場を見比べる視点とコツを解説します。
図面と現場が食い違うのはなぜ?
たとえば、こんな経験はありませんか?
- 図面に描かれていた開口寸法では、機器が納まらない
- 配管のルートが壁や梁に干渉していて、実際には通せない
- 仕上げ材の厚みが反映されておらず、段差ができてしまった
こういったズレは、図面が『全て正しい』という思い込みから生まれます。
図面はあくまで「設計者が想定した通りにいけば成立するはずの計画」であって、現場で実現できるかどうかは、別の話です。
だからこそ必要なのが、図面と現場を見比べる力。
この力を育てていくことが、建築のプロへの第一歩です。
設計監理者の目線
―「意図どおりに現場が作られているか」を見る
設計監理者(設計事務所や設計部門の担当者)は、施工管理とは立場が異なります。
彼らが図面と現場を見比べるのは、「設計の意図が正しく現場に伝わっているか」を確認するため。
たとえば、以下のような点を見ています。
- 指定通りの仕上げ材や色が使われているか
- 図面に記載した寸法・高さが守られているか
- スイッチやコンセントが、使いやすい位置にあるか
- 美観や安全性を損なうような施工ミスがないか
設計監理者にとって図面は「伝える道具」であり、それが現場でどう『翻訳』されているかをチェックするわけです。
施工者の目線
―「この図面で施工できるか」を読む
一方で、施工者(現場監督や協力業者)は「実際に建てる」側です。
彼らが図面を見る目的は、「この設計を、どうやって形にするか」。
図面に描かれていない部分(天井裏、床下、搬入ルートなど)も頭に入れておき、次のような視点で確認します。
- 部材同士の干渉や納まりは成立するか
- 工程順に無理はないか(たとえば、先に仕上げるべき場所に重機が通る必要があるなど)
- 資材のサイズや重さに対して、現場での施工方法が適切か
- 他職種(電気、設備)との施工順や干渉がないか
図面を「答え」だと思ってしまうと、判断ミスを生む原因になります。
施工者にとって図面は「参考資料」であり、現場のリアルに合わせて読み解く力が問われます。
図面と現場を見比べるチェックリスト
以下は、設計監理者・施工者どちらにも共通して役立つ、現場との整合を取るためのチェックポイントです。
- 現場の仕上げ材や寸法は図面と合っているか?
- 表記されていない納まりが、現場でどう処理されているか?
- 図面通りに機器や家具は納まっているか?
- スペースに余裕はあるか?保守・点検は可能か?
- 他業種との干渉や矛盾点はないか?
- 最新図面が現場に反映されているか?(設計変更が見落とされていないか?)
ズレに気づける人は、信頼される
新人であっても、「あれ?この納まり、図面と違いませんか?」と気づける人は現場で重宝されます。
なぜなら、その一言がトラブルの予防になるからです。
図面を『ただ眺める』のではなく、「なぜこの形になっているのか」「現場ではどう表現されているのか」を考える癖をつけることで、建築の見方は格段に深くなります。
まとめ:意図と現実、その橋渡しができる目を持とう
図面と現場を見比べる力は、単なる技術ではなく「建築を成立させる力」です。
設計監理者の目、施工者の目、それぞれの立場で見るべきポイントを意識しながら、整合確認を行うことで、ミスや手戻りを未然に防げます。
最終的に大切なのは、「図面を信じすぎず、現場を疑いすぎず」、両方のバランスをとって全体を見ること。
次の記事では、図面チェックのコツについて、より実務に近い視点で掘り下げていきます。


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